文系でも頑張る

スイスで圧倒的に強い人達に出会った文系大学生が、なんとか強くなろうとあがく日記です。

Innovator's Dilemma Vol.2 第1章 ~ストレージ業界のケース~

本日もChristensenのInnovator's Dilemmaです。先日はイントロの部分を紹介しましたが、本書が一体どういったことを伝えたいのかについて全体的に触れたつもりです。
「うまく行っている企業ほど潰れやすい」理由は以下の3つでしたよね。(3つのfailure)
1. Disruptive Technology
2.技術の進歩が、市場のニーズを追い越す
3.「適切」な投資判断

第1章は、ハードディスクドライブ業界の事例をベースに、この3つのfailureについて述べています。
今から説明しますけど、よくこんな的確な事例見つけてくるなというのが最初に出てきた感想ですね。
こっちの大学の教授の授業を見てても思いますが、ケーススタディの的確さ、豊富さは僕のような努力が苦手な学生の勉強には助かります。

さて、本題です。
Christensen は「業績のいい会社がなぜダメになるのか」について研究しようと思ったときに、友人から助言をもらったそうです。
それは「遺伝子の研究をしたいやつで、人を研究するやつはいない」というもの。どういう意味かわかるでしょうか。
簡単のために、特定の遺伝子が、どのような性質(形質)になって現れるのか(発現するのか)について研究しているとしましょう。
その場合に、人間を研究サンプルとしようとしても、人間は寿命が80年位ありますし、サンプル数もどうしても少なくなります。
cause & effectがわかるまでめちゃめちゃ時間がかかる
だから、遺伝子学者たちは、小バエ(ショウジョウバエ)を使って研究したんです。
かわいそうな言い方ですが、小バエは繁殖期間や寿命が短くてすぐに世代交代が起こりますからね。

話が早速それましたが、要は企業の栄枯盛衰のペースが早い業界で研究するのが、この本の命題を検証する上で最適だというわけでして、それで選んだのがHDD業界だったと。
もはやSSDが台頭していますから、ストレージ業界と呼ぶべきでしょう。
詳しい会社名などは、僕の拙い要約で書くのは読んで頂いてる皆様の時間の無駄なので極力省くことにし、主要な会社や皆さんが知っているであろう会社がちょくちょく出てくる程度にしています。
それでは歴史の授業のはじまりはじまり。僕自身は簡潔な説明が好きなくせに今日も長文です。ほんますみません。
(全部読むのだるい方のために大事なところだけ太文字にしてます)

ストレージ業界の技術はIBMを端に発するものが多いようです。
HDDの元祖であるRAMAC、フロッピーディスクなどは1950-70年代にかけてIBMによって開発されたようですね。
そこからものすごいスピードで業界、そして技術が伸びていくんですが、マーケットリーダーの顔ぶれがどんどん変わっていくんです。
例えば、1976年にストレージ業界のリーダーだった17の会社は1995年までにIBMを除きすべて姿を消しています(買収されたか、だめになったかです)。 
逆に、1976年以降市場に参入した富士通、日立、NECなどが1996年にはリーダーとなっています。
おそらく、今日では更に早い栄枯盛衰が見られるでしょうが、この時代に一つのマーケットが20年でメンバー総入れ替えというのは、それなりにすごいことですよね。
そして、その原因となったのが、テクノロジーの目まぐるしい発展です。
新たなテクノロジーが登場し、既存の企業が消えていくという歴史を、この業界は何度も繰り返していました。
ストレージ業界で何度も繰り返されていたことは、言い換えて要約すると以下のようになります。

「それまで記憶容量でマーケットをリードしていた企業が、容量では劣るがコンパクトな新製品を持った新規参入企業に打ち負かされる」

たくさんの研究者がこの問題について議論してきたのですが、
これまでの研究では、「技術泥沼論(technology mudslide hypothesis)」という考え方が主流でした。
日本語の名前は僕が勝手につけたので、放っておくとして、その議論の骨子は以下のようなものです。

「企業は(泥沼の中でもがく人と同じように)、新たな技術に対する努力をし続けなければ(もがいて息継ぎをしようとしなければ)、潰れてしまう(死んでしまう)」

要は既存の技術、マーケットの地位に甘んじて、より良い技術の開発に勤しまなかった怠慢が、企業が消えていった原因だという仮説です。
しかしながら、歴史を振り返ると、消えていったかつてのマーケットリーダーたちは、泥沼で生きる努力を諦めたわけではなかったのです。
事実、彼らの抱える技術が進化を止めていたことはありませんでした。容量や、書き込み効率といった指標では、年々進歩していたのです。
なぜ彼らは失敗したのか。
それはコンパクト化というDisruptive Technologyに力を入れなかった、いや、入れられなかったからです、
そしてその理由は以下のようにまとめられます。

1. 企業は製品のパフォーマンスを容量というSustaining Technologyによって評価していたから
2. そしてその評価軸は既存の顧客によって定義されるから
3. そして市場の多くを占めるその既存の顧客を蔑ろにできないから

1.
コンパクト化と聞くと、disruptive(破壊的な)という単語とは程遠い技術のように感じますが、前回も説明したとおり、Disruptiveな技術は技術的にRadicalである必要はありません。
マーケットリーダーたちは、これまでより小さくて心もとない容量のHDDが、自分たちの売れ筋商品に敵うがはずないと考えていたのです。
2.
なぜなら、自分たちの顧客が求めているのは、容量が大きくて信頼性のあるHDDだと考えていたからです。
実際に、市場の大部分の顧客は容量の大きなHDDを求めていました。
3.
既存顧客が容量の大きいHDDを求めている以上、小さくて容量の小さいHDDを作る必要性は全くありませんでした
むしろ、そんなものにお金を回すよりも容量の拡大が求められていました
しかしながら、小さなHDDを求める市場は徐々に拡大し、それとともに容量も増加したことで、リーダーたちが製造していたHDDたちはあえなくお役御免となりました。
その頃には、かつて敵だとすら思っていなかった新参者たちが、覇権を握るようになっていたというわけです。

ここから学ぶべきことを僕なりにまとめてみました。

・製品の価値基準が固定化することに注意すべし
マーケティングの定番的手法ですが、企業は(顧客をセグメント化し、)製品の評価をするための軸を作っていきます。
企業は顧客が製品のどのような性質をどのような重みで評価しているかを知り、自社の製品をその評価軸に沿って販売するなり改良していくわけです。
(この手法の裏に潜む「顧客中心主義(customer-centricity)」という理念はマーケティングやマネジメントの世界で公理のような存在で、否定することは難しいです。)
そして、多くの企業では、製品の評価を定量的に行います。
「A社のハードディスクは、容量は5点だが、価格は2点だ。それに比べて我々のハードディスクは容量は3点かもしれないが、価格は5点だ」
みたいな感じです。明確でバイアスの少ない方法でしょう。
しかし定量的に価値が測られるようになると、それまでの評価軸では測れない技術の市場での可能性を予想することは難しくなります
それまでの評価軸では測れない技術が、Disruptive Technologyです。

Disruptive Technologyは、Sustaining Technologyに最初こそ劣るが、いずれ追いつき追い越していく
容量なんて、時間が経てば増えていきますからね。

Disruptive Technologyは、いずれSustaining Technologyになる。
新たな価値基準が生まれても、それが定番化すれば、それはもはやDisruptiveではありません。

・顧客は、己が求めていることを常に自覚できているわけではない
これはよくいわれる話ですよね。
iPhoneが出てくるまで、全面タッチパネルでカメラがついてて音楽も聞けて、ゲームもできて、ネットに繋がる携帯に対する必要性など、ほとんど誰も感じていなかったはずです。

・良客は、足かせでもある
商売人失格の言葉ですが、上述した理由がある以上、ロイヤルカスタマーを満足させるだけでは不十分、むしろ危険だと言えるでしょう。
「既存顧客中心主義」的な研究投資を長年続けていると、Disruptive Technologyに対する投資が蔑ろにされ、取り返しがつかなくなります。

では、どうするべきなのか。
それについては第2章以降で述べられているとのことです。
早く読みたいけど、こうして説明しようと思うと一日20ページほどが限界です。

今回も長くなりまして申し訳ありません。
数式が並んでいる本より、こういう事例ベースの本のほうが楽しく感じるのは、単に自分が論理的な思考や手を動かすことを放棄しているからかもしれませんが、ひとまずサクサク読み進めていきたいと思います。